ホーム > ライブラリー > マーケティング・アナリティクス > 顧客戦略策定のためのマーケティング・ワークブック > 調査項目H: データと情報システムの活用 (後編)
山本 泰史
マーケティング統括部
マーケティング部 スペシャリスト
キャンペーン管理ツールは、複数にわたるキャンペーンの計画、実行を管理するものです。主たる利用者はマーケティング担当者であり、このツールを用いることによって、キャンペーンの実行や関連ロジック/ルールを自動化(マーケティング・オートメーション)し、効率性と一貫性を手にすることが可能となります。結果、マーケティング担当者はキャンペーン開発の生産性を向上させ、より細分化された対象顧客に対して、訴求力の高いキャンペーンを数多く実行できるようになります。従来企業は、そしてこれは ITベンダーもですが、それぞれのチャネルに大きく依存した形式でこのような機能要件を満たしてきました。例えばダイレクトメール宛先抽出のアプリケーション、電子メール配信のアプリケーション等がその代表例です。しかしながら顧客とのタッチポイントであるチャネルが多様化し、企業側のコミュニケーション要求としても、顧客側のサービス要求としても、この多様化したチャネルに対応することが求められています。そしてこの結果、キャンペーンそのものを管理する機能を特定チャネルから独立させ、複数のチャネル活用を前提としたツールとして機能拡張をする形式になってきています。例えばあるキャンペーンは、3つのチャネル(電子メール、物理ダイレクトメール、インターネット)を経由して案内される、ある特定チャネル(コールセンター)では、同時に 3種の異なるアウトバウンドキャンペーンを仕掛ける ... こういった要件の集合を管理していくとき、キャンペーンそのものの独立した管理が不可欠となります。キャンペーン管理ツールの機能は幾つか存在しますが、大きくは計画段階における「対象顧客選定」、「案内商品/サービス/オファー/メッセージ策定」、「チャネル設定」、「タイミング設定」の 4つと、実行段階における「計画の自動実行機能」、そして各キャンペーンの上位でコントロールされるべき「ロジック/ルールの設定と自動実行機能」の 2つです。それぞれについて以下に補足を加えます。
「対象顧客選定」とは、特定キャンペーンにおける対象顧客を絞り込む作業を支援する機能です。絞り込みの方法としては大きく 2つです。単純な方法はデータベースに対して絞り込み条件を設定し(年齢 > = 35歳等)、これらを組み合わせて条件に合致する顧客を対象顧客とする方法です。利用されるデータとしては顧客属性、購入/利用された商品やサービス、RFM等の顧客重要度、データマイニングで得られた確率スコア(スコアを順位変換した方が件数足切りをする際に容易となります)等が挙げられます。また、分析によってある特定の顧客群を見つけ出す機能も有用です。「全顧客を収入貢献度で 5等分し、上位 20%の顧客を顧客グループとして登録、この顧客グループを母集団にさらに購入商品構成比別で分析、キャンペーン対象となる商品A を購入している顧客をさらにセグメントとして登録、これを最終的な対象顧客とする」といったシナリオを分析画面から連携させる形式です。複合的な例を加えるならば、「ここで得られた対象顧客に 5,067名を未来店日数が長い順に並び替え、上位(最近来店頂けていない)2,500名を最終対象顧客とする」といった形式になります。上記 2つ(単純な絞込み or 分析による絞込み)の絞り込み方法、そしてこの 2つの複合利用が可能であることが理想です。また、細かいながらも便利な機能としては、効果測定のためのコントロールグループ(ベースラインを見るために敢えて案内しない顧客グループ)、テストマーケティングや事前効果把握のためのサンプルグループ(本来案内したい対象顧客の数%をランダムサンプリング等で抽出)の設定機能等が挙げられます。
「案内商品/サービス/オファー/メッセージ策定」は、案内したい商品、サービス、オファー、メッセージを策定する機能です。単純に新たに販売を開始する商品やサービスを案内する場合もありますが、顧客毎に案内商品やサービスを個別化させる場合、同じ商品でもオファー内容(割引インセンティブ等)を個別化させる場合、同じ商品でもメッセージ(訴求ポイント等)を個別化させる場合も存在します。また個別化のレベルに関しても、セグメント毎に可変にするといった中庸的なアプローチもあれば、データマイニングを駆使してルールを構築し、得られたスコアに基づいて顧客毎に完全な個別化を実施する場合も考えられます。またここで策定された内容は、各チャネルを通じて案内されるコンテンツを決定づけます。ダイレクトメールの宛名、住所といった実際的なバリアブル要素に加え、そこに記述される商品、オファー、メッセージが上述の個別化ルールに基づいてセットされます。同時に複数チャネルである場合、それぞれのチャネルが有する表現制約に応じてコンテンツを変容させることが必要です。ダイレクトメールであれば葉書もしくは封筒内の封入物に収まるフォーマットであることが求められ、コールセンターであればエージェントが話すスクリプト・テキストでなければならず、携帯メールであれば携帯電話の画面に適したフォーマット、ボリュームにする必要があります。今や顧客コンタクトに利用可能なチャネルはあまた存在するため、これらの全てに対応していくのは現実的ではありません。キャンペーン管理ツールでは必要な要素を管理し、コンテンツフォーム側は各チャネルに管理を任せ、必要要素をデータフィードする形式で連携させるのが効率的な手法と言えます。
「チャネル設定」は、その名の通り利用するチャネルを設定する機能です。通常チャネル選定を行うにあたって考慮されるのは、案内したいコンテンツを伝えることができるチャネルであるかどうか、案内したい顧客にリーチできるチャネルであるかどうかの 2点ですが、前述のように、単一キャンペーンが複数チャネルを利用することが想定されなければなりません。またこの際、どの顧客をどのチャネルに振り分けるのかについても設定される必要があります。その際のルールとして利用されるのは、チャネル間の優先順位ルールや選択ロジック(電子メールのような低コストチャネルを優先する、貢献度上位顧客には外商担当者を、中位以下にはコールセンターを割り振る等)、チャネル嗜好性(最後にコンタクト/レスポンスのあったチャネルを用いる、今まで最も頻用されているチャネルを用いる等)が挙げられ、これらを支援できることが必要です。
「タイミング設定」は、キャンペーンの実施タイミングを設定する機能です。スケジューラーを利用して実施したいタイミングを設定する機能が基礎的な機能ですが、イベントトリガーによって、データベース上に発生したデータの変化を顧客の変化として読み取り、それに基づいて反射的に、事前定義したキャンペーンを実行する機能、複数ステップで顧客と対話的にキャンペーン・コンタクトを遂行していく機能(マルチステップ型コミュニケーション)、そして定期的なコンタクトを遂行していく機能をカバーできていることが必要です。特に複数ステップで顧客それぞれの反応タイミングに基づいて非同期にコンタクトを実行できることは、顧客がニーズを抱き、ニーズに対して関心が高いタイミングに個別対応できる能力を有していることを意味します。
「計画の自動実行機能」は、ここまでで述べてきたキャンペーンの各要素 4つに基づいて、キャンペーンを自動実行する機能です。各チャネルに対してコンタクト対象となる顧客リスト、案内オファーの情報を、設定されたタイミングで用意してあげる機能を意味します。そしてこれに先立って、「ロジック/ルールの設定と自動実行機能」が必要です。例えばパーミッションに基づいて対象顧客リストからコンタクト不可顧客を除く、過剰なコミュニケーションにならないよう、一定期間におけるコンタクト回数を制御する、チャネルが有しているキャパシティに基づいて対象顧客リスト数を制御する、複数キャンペーン間での案内優先順位に基づいて案内すべきかどうかを制御する、これらの理由で制御された顧客に対して、次回のサイクルタイムに繰り延べて実行するといった機能です。
データウェアハウスにおいては、ここまでで述べてきた各アプリケーションが必要とするデータを提供することが求められます。必要なデータの整理に関しては次章で触れますが、ここではデータウェアハウスに蓄積されるデータの蓄積上のポイント 4点について触れます。
まず、データ間のリレーションシップが適切に設定されていること、そして同一種のデータが重複、分散することなく単一のデータとして保持されていることが必要です。この 2つの要件を合わせて、データの「一元性」と呼びます。これによって、見たいデータに対して単一パスでのアクセスが可能となり、そのデータに対して重ね合わせたい他のデータを、リレーションシップを通じて重ね合わせることが可能となります。例えば顧客の性別構成比を見たいとします。求める答えは「自社顧客の女性構成比は 80%、男性は 20%」のような形式となります。まずアクセスするのは顧客番号が振られた顧客のデータです。でもこのデータがチャネル毎、キャンペーン毎に分かれて保持されており、それぞれに重複顧客が存在していたら、結局のところデータベースに登録されている顧客数が何名なのか理解できません。正しい顧客数をカウントできないのです。続いてリレーションシップです。顧客の属性に性別のデータがあり、データの中身は 0 と 1 で記述されているとしましょう。どちらかが男性で、どちらかが女性です。これを見るためには性別マスターデータへのリレーションシップを手繰り寄せ、それを理解する必要があります。このリレーションシップが適切に設定されていなかったら、男性と女性のどちらが 80%なのか判別できません。
続いて考慮すべきは、データ粒度です。これは特にトランザクションデータやインタラクションデータに当てはまりますが、発生時点の明細レベルで保持することが必要です。特に分析においては活用の柔軟性を維持するために、明細レベルで保持し、任意の形で積み上げたり、明細レベルでしか露見することのない微細なパターンを発見したりすることが重要な活用ポイントとなるためです。
そして 3点目が、データの時間的な長期性です。トランザクションやインタラクションデータを履歴で保持し、データマイニング活用や、顧客のサイクリックなパターンを理解するために充分な過去データを保持することが重要となります。同時にマスターデータに関しても履歴保持することが求められます。例えば顧客の住所マスターを考えた場合、最新の住所が必要であることは言うまでもありませんが、引っ越しというイベントは住所マスターの変更という事実でしか捉えることはできません。また過去とは逆方向、なるべくリアルタイムに近いデータを保持していることも重要です。例えばデータマイニングで特定商品の購買可能性をスコアリングしているとします。このスコアが高いということは当該商品のキャンペーン案内に反応する可能性が高いことを意味しますが、今この瞬間に当該商品を購入している可能性もあるということを意味します。対象顧客のリストアップに際してこの最新データを利用することができれば、既に購入した商品を案内してしまうような、顧客にとって奇妙に映ってしまう案内を避けることが可能となります。
最後に 4点目。データの広範性です。なるべく広い範囲で、包括的に、さまざまな種類のデータを有することが、レポーティング、非定形分析、そしてデータマイニング実施の観点からも好ましいのは言うまでもありません。データ種別としては顧客マスター、商品/サービスのマスター、チャネルのマスター、カレンダーマスター、キャンペーンマスター等各種マスターデータと、トランザクションおよびインタラクションデータがその代表例ですが、すべての顧客、すべての商品/サービス、すべてのチャネル、すべてのキャンペーンに関する顧客トランザクション/インタラクションデータが求められます。また、経費や商品/サービスコストに関するデータも重要です。マーケティング活動の収益性、そして顧客収益性を理解する際に、コストデータが収益性算出上不可欠になるためです。
このような 4点に関し、自社のデータが顧客に対する360度の理解に充分なものであるか検証する必要があります。
「調査項目H: データと情報システムの活用」に関するワークシート (PDFファイル 25KB)
次回は「調査項目I: データと情報システムの維持/管理」および「まとめ」をご紹介します。