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山本 泰史
マーケティング統括部
マーケティング部 スペシャリスト
このワークブックは、マーケティング担当者が、自社のマーケティング活動やそれに関連する要素を整理、調査し、今後の方向付けや、自社評価/セルフチェックに用いることを目的としています。当社は Teradata というデータベース・ソフトウェアを販売する企業であり、このソフトウェアは一般にデータウェアハウスと呼ばれるシステムに利用されている製品です。データウェアハウスを利用してマーケティング(もしくは顧客管理、CRM)業務と、それに必要な分析を行い、知識を析出していくことを企業が目論む際、多くの場合において IT以外の要素が成否を分けることになります。要件を満たすことが出来るテクノロジーを選択することが重要であることは言うまでもありませんが、それ以上に組織や体制、アプローチの方向性といった高次のビジネスプロセスに一貫性があることが重要となります。ここでは IT も含めた、これらの要素を包含する形で整理し、それぞれに対しての調査を行うための枠組みを「ワークブック」という形で提供するものです。当資料は、以下のような活用が可能です。
このワークブックは、大きく 2つのフォーマットで提供します。1つは全体の枠組みを提示するための解説文章、そしてもう 1つは、解説文章に対応する形で用意した、各項目に関するワークシートです。ワークシートはそのまま記入頂いても結構ですし、スペースが足りなければ項目を抜き出し、ご自身の好むフォーマットで整理する際の要素項目としてご利用頂いても結構です。なお、解説文章、そしてワークシートに整理した項目には、筆者自身の考える「組織論、アプローチやプロセスのあるべき姿」が少なからず反映されていることを追記しておきます。どのようなテーマであれ、理想像や最終的に導きたい姿がなければ、整理し、洗い出す意味も、改善への道筋も動機付けも得られないからです。しかしながら、ここで規定した筆者自身の考えが完全であると言い切るつもりもありません。書き手としては内心、少なからず自信を持って表現していますが、この点は留保すべきと考えす。より良い理想像や、置かれた環境に基づいて描かれた、異なる理想像もあるかもしれません。従って、このワークブックを利用する際には整理項目と対比されるべき理想像を見比べ、自社の環境に置き換えた際に、本当に整理すべき対象であるか、足りない項目はないかを一度判断してから取り組むことをお勧めします。マーケティング活動は、ヒトの心という広大かつ複雑なテーマに対して、科学、論理、感性、表現力を駆使して取り組む活動であり、「お金」という明確な指標で結果を求められるシビアな活動でもあります。過剰に一般化したり、標準化したりすることによって、活動そのものが凡庸なものに陥ってしまうことは避けなければなりませんが、一方で全体的な位置づけの中でその活動を理解し、評価し、自己修正していくためには標準的な枠組みが必要となります。この資料は後者に寄与することを意図としたものです。
図1 は、このワークブックを進めて行く際の全体像を示しています。企業はその活動において市場(=顧客)に対して働きかけ、また競合他社も含めた外部環境に少なからず影響を受けます。そして企業内には幾つかの組織が存在します。マーケティング部門を中心に考えた場合、顧客に対する働きかけにはチャネル(純粋な媒体から、人的チャネル = チャネル関連部門も含む)が用いられます。また一方でアプローチするべきオファーの肝となるのが商品やサービスです。マーケティング部門は主にこの 2つの機能と連携していくことになります。そしてマーケティング部門が生成し、実行していく顧客アプローチの単位が「キャンペーン」です。企業は幾つものキャンペーンを実行し、キャンペーン毎にオファー内容や対象顧客が設定されます。「データ、ITインフラ」は、特に識別顧客向けのキャンペーン実行に利用されます。またキャンペーン前段階の顧客分析、キャンペーン実施後の評価分析にも用いられることになります。大きく、データ/情報システムの活用と、データ/情報システムの維持管理に主眼が置かれなければなりません。
以上のような全体像から、理解すべき各項目として図1 内にアルファベット記号をふりました。各項目は以下の通りです。

次回以降それぞれのポイント、そして調査項目について整理を試みます。
マーケティング活動に限らず、全てのビジネス部門における活動は、企業経営上の上位目標を達成するためのパーツとしての役割を担います。ビジョン、ミッション、目標(中長期の目標から当年目標に至るまで)、重点施策、戦略、取り組み課題 ... 呼び名や構造の定義は幾通りにも存在しますが、これらに傅いてマーケティング活動も実施することが求められ、これらに対する貢献が期待されるからこそ、組織における一翼を担っています。最初に調査、整理されるべきはこのような方向性であり、何か判断に迷ったりすることがあればここに戻り、正しい方向性に基づいて業務や意思決定が為されているかを判断することになります。
ここではこのような上位目標の一群を総称して「方向性:Direction」と呼ぶことにします。方向性の中で最上位を占めるのは一般に「ビジョン:Vision」です。ビジョンとは、自社が理想とする社会の姿を文章化したものです。主語は社会もしくはその一部を指し、それがどのような状態になっているかを記述します。「私たちはこんな社会を理想としています」という宣言です。この実現に向けて自社が何に取り組むかを記述するのが「使命:Mission」です。使命の記述において主語は自社であり、「自社は誰に対して何をします」という宣言がなされます。言葉を変えれば社会における存在意義、大きな意味での自社のビジネス内容や事業ドメインを意味し、対象市場をも明確化します。そして使命において定義された活動の定量を掲げるのが「目標:Objective」です。ビジョン、使命が社会的な存在価値、社会との関係性が記述されるのに対して、目標は利益最大化に準ずる「達成したいコト」を意味します。企業が利潤追求というエゴイスティックな要求を持ちつつ、社会的に存在価値が認められるとき、それはビジョン、使命、そして目標の間に一貫性やバランス、接点を有しているが故です。一般に目標は P/L、B/S に記述される値(売上や利益、資産等)の幾つか、もしくはその伸長率等を掲げますが、場合によってはそれを実現するためのサブ・ファクターもここに掲げられます。例えば銀行であれば何万口座獲得、通信であれば契約世帯目標、顧客あたり平均月間利用額等がこれにあたるかもしれません。場合によっては市場シェアや、業界内のランクを明示する場合もあることでしょう。また、単年の目標値から数年に及ぶ計時型の目標値を有する場合もあります。そしてこれを実現させるための大まかなプラン、重点的にリソース投下するべきポイントを指し示しているのが「戦略:Strategy」です。重点施策、取り組み課題とも呼ばれますが、どのようなストーリー、シナリオで目標を達成するのか、改善すべき点、強化すべき点は何なのか、リソース投下の可能性がある数多くの選択肢の中から、重点的に投下すべき選択肢は何なのかが規定されます。そして目標と戦略が規定された時点で、自社内の各部門が貢献すべき点、部門目標とリンク付けがなされるまでに分解されなければなりません。多くの場合、目標と戦略は複数掲げられ、それぞれに優先順位が設定されます。またときには「これには取り組まない、手をつけない」というリソースの使い途を制限する記述になる場合もあります。
ここまでの整理をまとめると「方向性」は、「ビジョン」、「使命」、「目標」、「戦略」によって構成され、この順番で上下の階層関係を有します。そしてさらに重要な点はこれらの方向性が決定されているだけでなく、自社内の隅々まで共有され、浸透し、ルーティンワークのみならず、最前線で発生する不測の事態が発生する瞬間においても、意思決定と行動の規範とならなければならないという点です。
前述の方向性が決定付けられた際、その戦略の 1つもしくは複数としてマーケティングに関連する戦略が決定されます。場合によっては顧客戦略、市場戦略、CRM戦略、顧客管理戦略と呼ばれたり、戦略が政策に名前を変えたりするかもしれませんし、もっと剥き出しの「既存顧客からの収入額改善」のような戦略かもしれませんが、ここではそれらを含めます。但し、方向性の中では「お題」として掲げられるのに対して、ここでは所轄部門(単独もしくは複数)が設定され、戦略の詳細記述と、上位目標を達成するための中間目標、具体的なリソース投入計画とアクションプラン、そしてそのスケジュールと責任主体が定められることになります。
マーケティング戦略において策定されるコトは、単純には STP(Segmentation, Targeting, Positioning)、4P(Product, Place, Price, Promotion)等で規定される類のコトです。どのように市場を細分化するか、そしてその中で誰に対して、どのチャネルを通じてどのようなオファー(商品やサービスの属性、価格を含む)を行うことによって、顧客からどのような認知、位置づけを得るかを規定します。そしてそれを実現するためのヒト、モノ、カネをどのように振り向け、いつから、いつまでに何をすべきかを規定します。また継続的に実施されるべきこと(例:接客時のルール、メールマガジンやニュースレターのような定期継続コミュニケーション等)に関しては、そのポリシーが規定され、実施が徹底されます。そしてこのような戦略はドキュメント化され、経営層だけでなく、ビジネスライン、チャネル部門、マーケティング、商品開発といった最前線で顧客とのコミュニケーションを司る部門、もしくはそれに影響を与える部門の間で共通認識として共有されていることが必要です。
ブランディング活動は、対象が限定されない(正確には想定される全ての人格を対象としなければならない)稀有なマーケティング活動です。顧客、株主、一般市民、取引パートナー、政府や公共機関、そして社員に対しても、自社(商品ブランドやサブブランドの場合は自社商品やサブブランド)を統一された人格として位置づけ、名称やロゴタイプ、トレードマークを通じて好ましい印象や信頼を与えることがその目的です。
ブランディングの範疇に含まれるものの代表として、前述の名称やロゴタイプ、トレードマークがその中心に据えられますが、ブランディングはその限りではありません。広告媒体や自社に関連する全ての可視物がその対象となります。例えば物理店舗、Webサイト、商品パッケージ、販売員の制服、コミュニケーション媒体(封筒や名刺、請求書等)、イベント等における造作物にいたるまで、見えるもの全てが統一された印象を与え、唯一の存在であることを訴える必要があります。このためには、前述の可視物作成に対する統一されたガイドラインがドキュメント化されていなければならず、社員、特に媒体製作に携わる人間がこのガイドラインに沿うよう教育されている必要があります。
また、自社の心象を決定付ける大きな要素として、最前線の顧客サービス担当者が挙げられます。コールセンターの応対、店頭での接客、営業担当者の振る舞い等がこの代表的なものです。いくら製作媒体の印象が統一されていても、Webサイトが言っていることと営業担当者の口から出る言葉に違いがあれば、自社は多重人格者と認識され、一貫性が欠落した、信用に値しない組織と思われてしまう危険性が生まれます。このような危険性回避のコーディネイションを行うのも、前述のガイドラインの役割です。自社を人間として擬人化表現した場合、どのような人間であるか、またもっと直接的には、自社がどのような目標、価値観、使命、社会的存在意義を有しており、どのようなビジネスを行っており(事業ドメインの範囲内と外はどこか)、どのような商品やサービスを提供しており、そこからどのような価値を提供できるかがメッセージとして規定されなければなりません。時には何を言うかだけでなく、言い回しや表現もこれに含まれます。高級で上品な商品/サービスを提供する企業が、ティーンエイジャーの会話に用いられるようなフランクな言葉使いをすることも、その逆も無いからです。これらがガイドラインとして含まれ、同時に社員に対しても教育されなければなりません。
「調査項目A:企業戦略」に関するワークシート (PDFファイル 26KB)
次回は「調査項目B: 市場および顧客」をご紹介します。
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