ホーム > ライブラリー > マーケティング・アナリティクス > HAL9000への漸近線 > 第7回: 顧客管理に適用する - 課題4: マーケティング経費効率の向上
山本 泰史
マーケティング統括部
マーケティング部 スペシャリスト
(前回からの続き)
最後にご紹介するのは「(マーケティング)経費効率の向上」です。図4 の一番右側の列です。

ここで取りあげるマーケティング経費効率を指標として考えた場合、マーケティング経費効率を分母として、顧客から獲得できた利益金額を分子とする、投下資本収益率であると言えます。ここでの主眼は経費であり、その活用ですが、ここまでで述べてきた経営改善課題「新規顧客の獲得」、「優良顧客の育成」、「顧客リテンション」の全てに関連するものです。これらの経営改善課題に取り組むとき、1円でも少ない経費金額で、1円でも多い利益金額を獲得することがここでのテーマとなります。
その意味で「投下資本収益率」、つまり投資と考えることがここでは重要です。顧客に対して投資を行い、その結果がリターンとして返ってくると考えることによって、投資対象を厳密に選別し、投資回収に対してシビアになることが出来ます。もちろん顧客に対して回収を強いたり、そのような態度で接客したりすることは好ましくはありません。それをするのはお門違いと言うものですが、マーケティング活動に限らず、全ての商売における全ての支出は投資であり、それをすることによって儲けることが前提となっています。もちろん極めて短期的な意味で儲けることしか考えられなければ、顧客とのより良い関係も構築できず、実施可能な施策にも制約が発生します。長期的な意味で回収し、先義後利を是とすることが重要となりますし、これを前提とする場合には将来も含めた長期的な期間で収益性を理解できることが重要となります。
レポーティングの対象として継続的にモニタリングする指標の代表例としては、キャンペーンの利益率(もしくは経費率、いずれにしても利益額と経費額の関係)が挙げられます。利益率の目標値に対して、達成状況を把握するとともに、実施したキャンペーンのそれぞれがどの程度成功しているかを理解する必要があります。また、利益率は分解していけば、経費額と利益額となります。そして利益額は顧客 1人1人からの利益額に分解できます。これらの観点から、キャンペーン案内顧客数と反応顧客数の関係についてもモニタリングする必要もあります。
経費に関してはマネジメントレイヤーに近い方は全体的な経費傾向を、そしてそれぞれのキャンペーンに従事する方は個別キャンペーンの経費傾向をコントロールする必要があります。多くの企業においては予算枠が設定されているものであり、これを超えた場合には企業指標にも影響を与えることになるためです。もちろん経費を予算内に抑えることが目的ではなく、費やした経費に相応しい効果を獲得することが目的です。マーケティング部門はときに直接的な収益の収穫部門ではないかもしれませんが、チャネル部門や事業部門等と共働/連携した結果としての収益を最大化させることがその目的となり、目標とすべき指標もそこにあります。
経費を基準に考えた場合、単純には無駄に終わるキャンペーン案内を最小化することが重要であり、この意味においてキャンペーンの反応率は大きな意味を持ちます。反応しない顧客に対する案内を最小化させることが経費最小化の一助となります。一方でキャンペーン案内顧客数を絞り込みすぎれば、機会損失が発生する確率も高くなります。本来案内すべき顧客に案内しなければ、達成したいと考える利益額に行き着かず、マーケティング部門の貢献度が低い結果に落ち着くかもしれないのです。従って、反応率を向上させつつも、反応顧客数を増大させるというジレンマが存在し、その間でバランスを取ることが求められます。そしてこれに対して適切な判断基準を提供するのが利益率、つまり結局のところ儲けはどうだったのかという指標です。このような観点から、キャンペーン経費、獲得利益、案内顧客数、反応顧客数、そしてそれらを利用した利益率と反応率に関する指標を把握し、モニタリングすることが必要となります。
また一方で、経費効率を大幅に改善するためには自社の収入に関する管理が必要になります。たとえば買上金額、もしくは収入額は顧客の支持度合いを意味します。また商品の買上頻度やサービスの利用頻度もこれらを牽引する指標です。これが高いこと、もしくは増加していることは顧客の支持、そしてその拡大を意味しますが、一方で自社からみた場合、これらの顧客が収益構造上重要であることを意味します。
そして付随的に未利用期間数は、顧客離反の兆候として捉えられる指標でもありますが、一方でこの指標は企業収益性に対するネガティブインパクトを与えます。未利用期間数を顧客全体で捉え、一方で固定的にコストのかかるリソース等を考えた場合、投下したコストを最大限活用するためには、利用度合いを最大化するしかありません。これらのコストの最たるものとして、店舗や支店の場所、設備、人件費が挙げられます。また通信業であれば電話回線、銀行であれば ATMネットワーク等もこれに該当します。コールセンターやオンラインサイトもこれに該当することでしょう。これらのリソース活用を最大化する取り組み、そしてリソース利用需要に応じたリソースの準備が必要になります。未利用期間日数とは、逆をとれば利用頻度のインターバルを意味します。これが利用需要を示してくれるものであり、リソースの準備にはこれと照らし合わせ、収益上と顧客満足上の観点から充分であるかを吟味する必要が出てきます。
実施キャンペーンの成否が好ましい結果であれ、思わしくない結果であれ、それに対する評価が必要になります。次に実施するときにはどのように改善するべきかを理解しなければならず、原因追求が必要となります。また、キャンペーン計画段階においても、どのような顧客に対して、どのような商品/サービスを、どのようなチャネルを通じて案内すべきかが検討されなければなりません。これらのそれぞれは選択肢であり、もっとも利益率の高い選択肢を組み合わせることがキャンペーンの結果に結びつくからです。計画段階においても、実施後の評価段階においても、顧客属性やセグメント、商品/サービス、案内メッセージやインセンティブ、チャネル、実施タイミングといった各次元で分析を行い、キャンペーンをより良くするための知識を獲得する必要があります。
経費効率を最大化する、言い換えれば利益率を高めるとき、その対象として考えられるのが顧客単位での収益性です。LTV(Life Time Value: 顧客生涯価値)と呼ばれる指標が今日において考慮されるべきその最終指標です。LTV はその性質として予測指標であり、その顧客から将来に渡って獲得されるであろう利益額を導き出すものです。この予測値算出のためには、現在の収入、経費に対する正確な把握が必要であり、これをベースに現在までの顧客利益額を算出します。そしてこれまでのトレンド、当該顧客が所属するセグメント特有の係数(離反可能性、購買反応可能性等)、割引率等を考慮し、将来の利益トレンドを予測するものです。モデリング/スコアリングによってこの指標が得られ、顧客の将来的な重要度が把握可能となり、投下可能な経費額に対する理解を得ることが可能となります。もちろんこれは予測値ですので、予測通りの利益が獲得できるかは分かりません。従ってこの値は継続的に再計算されていくことになります。また、将来予測の算出に至らなくとも、現在までの収入額、そして顧客毎の活動コストに基づいて算出された経費額を用いることによって現在における顧客利益額が把握可能となり、ここからもある程度正確に顧客重要度を定義することが可能です。
また、顧客マスターデータが充分な品質を維持していない場合、企業は様々な局面で経費を垂れ流し続けることになります。例えば名寄せのロジックを構築し、顧客マスター上の重複や無効を検知することによって、1人の顧客に対して同一のメッセージを複数回案内したり、引越し等の理由で不達の顧客に対して何度もメッセージを案内したりすることがなくなります。このような事態が本質的に無駄な経費の垂れ流しであり、企業活動上何の価値も無いことは明らかです。継続的にロジックを廻し、データを一定品質以上、一定鮮度以上に保つことができれば、無用な経費を垂れ流すことが無くなり、ここに発生していた経費を他の、本来有意義な活動に振り向けることが可能となります。
計画されたキャンペーンは、対象顧客リストや関連データ(住所やオファー内容等)と共にチャネル系のシステムに連携され、キャンペーン実行に利用されるのが一般的です。この際に気をつけることは、資源や予算上の限界は常に存在し、それを最も投資効率の高い対象に振り向けるよう制御することです。例えば、機会損失の最小化と、自社資源の最大効用を実現するために、直接ロジックを構築して自動制御することも考えられます。顧客コミュニケーション時に考慮すべき点(複数のキャンペーン間の優先順位、コンタクトインターバル、チャネルキャパシティの限界等)をルールとして登録し、実施される複数のキャンペーン、そしてキャンペーンが設定した対象顧客リストに対して適用することによって、チャネルを中心とした自社資源を最適化させることが可能となります。またこれに合わせて顧客重要度やキャンペーン反応可能性を利用することによって、機会損失を最小化させることも可能となります。
例えば異なる 2つのキャンペーンが存在し、1人の顧客が両方のキャンペーン対象顧客になっているとしましょう。この場合、優先順位に基づいて制御するルールを構築すれば、優先されるべきキャンペーンが適用され、それ以外の顧客 - キャンペーンはメッセージの一貫性を維持するために「待ち」状態とさせることが可能となります。同様に過剰なコミュニケーションとならない様、直近にコンタクトのあった顧客 - キャンペーンは「待ち」状態となり、チャネルキャパシティ(例: コールセンターの架電キャパシティ)上の観点からコンタクトできなかった顧客 - キャンペーンも「待ち」状態とさせることも可能です。この際、「待ち」状態と「実行」状態を選り分ける基準としては、顧客重要度やキャンペーン反応可能性が用いられることになります。そして「待ち」状態の顧客 - キャンペーンは次回の実行サイクルで再度ルールに掛けられ、他の顧客 - キャンペーンとの比較によって実行されるかどうかが自動決定されます。このようなキャンペーン全体、つまり企業コミュニケーションを束ねるルール群を構築することによって、顧客にとっても快適で、一貫性の高いコミュニケーションが実現されます。そして同時に、利益獲得確率が最も高い顧客に対して自社資源を優先的に割り当てることになるため、経費効率の最も高いコミュニケーション活動が実現されることになります。
多くの指標同様、実施したキャンペーンの経費率、もしくは収益率に関しても、トリガーを用いてマーケターを中心とした利用者に通知させることが可能です。ある一定のしきい値以上/未満を基準とすることもできますし、関連するレポートへのリンク先を一緒に通知させることも考えられるでしょう。膨大な数のキャンペーンを同時実行していく場合、異常な動きをしたキャンペーンに特化して検討したいものであり、このような場合には多くのキャンペーンからフィルタリングの役割を果たしてくれます。
また、長期に渡るキャンペーンでは途中経過段階で状況を通知させることも考えられます。例えばイベント主導型のキャンペーンを実施する場合、一般にキャンペーン期間は長期化します。イベント主導型のキャンペーンでは特定条件に合致した顧客のみを検出し、キャンペーン駆動させるため、単一の日を見た場合には数名の対象顧客しかリストアップされないようなケースが常態化します。この場合にも経費率や収益率、もしくは反応率や案内顧客数をモニタリングさせ、一定のしきい値を超えた際にアラートさせ、アラート内容に応じて実施キャンペーンの検出ロジックやオファー内容に微細な修正を加えていくことも考えられます。検出ロジックが緩ければ合致顧客は増大し、おそらく反応率も下がります。逆に検出ロジックが厳しければ合致顧客が存在しない事態も発生するかもしれません。これらのファインチューニングが必要になりますし、その改善のきっかけとしてアラートを機能させることも可能です。またより単純にオファー内容やインセンティブ、提案商品の改善が必要な場合には反応率をトリガーに利用できます。
以上、「マーケティング経費効率の向上」に関するデータ分析/活用例について触れてきました。基本的な考え方について再度まとめると、自社資源であるマーケティング経費や、チャネル運営費用をなるべく無駄に使わず、また数ある選択肢の中から最も投資効率の高い対象(多くの場合顧客)に割り当てることをコンセプトに、自動化できる部分を自動化するということ、無駄や非効率になっている箇所を見つけ出すためにレポーティング/非定型分析/イベントトリガーを活用するということの 2点です。新規顧客を獲得し、優良顧客に育成し、離反を阻止するために、無尽蔵の資源を割り当てることができるならば何も難しいことはないのですが、企業活動を行なう上で資源的な限界は常に存在するものであり、その中で効果を最大化することが求められます。HAL9000的に考えるならば、Teradata にこのような資源の最適利用、そして効果最大化のためのロジックを幾つも覚えこませることによって、自動的に自社がコストコンシャスであり続けるよう制御します。