ホーム > ライブラリー > マーケティング・アナリティクス > HAL9000への漸近線 > 第4回: 顧客管理に適用する - 課題1: 新規顧客の獲得
山本 泰史
マーケティング統括部
マーケティング部 スペシャリスト
ここからは EDW/ADW というコンセプトを具体的なビジネスプロセスに適用することを考えます。例として顧客管理を扱います。前々回に既に触れたように、顧客管理において一般的な経営改善課題は、以下の 4つです。
そして、図4 が顧客管理のビジネスプロセスを EDW/ADW コンセプトに当てはめたチャートです。まず天下り的に全体構造を提示し、以降で今回含め 4回に渡り、それぞれの経営改善課題について説明を加えていきます。
図4 の横軸には、最下層に論理データモデルが位置づけられ、各経営改善課題を支援します。これらの経営改善課題への対処が、ビジネスプロセスである顧客管理の実現要素となります。またここでは顧客管理に関連する経営改善課題のみ記述していますが、当然ながらその企業、業界毎にビジネスプロセス(例えば通信事業者であればネットワーク管理等)とそれに属する経営改善課題は存在し、その全てを支援することになります。
一方縦軸には、機能要件として 5つの点を挙げています。これは連載の初回で前述した 5つの機能要件に対応します。そしてこの縦軸と横軸の各クロスポイントに、データ活用の端的な例を記述しています。
最初に見ていくのは、「新規顧客の獲得」に関する 5つのクロスポイントです。図4 の一番左側の列が該当します。新規顧客の獲得を行なう目的は、自社との取引を行なう顧客の数を増大させ、獲得できた顧客との関係構築を行なうことによって売上を増大することにあります。したがって直接的にはマーケットシェアを増大させることであり、顧客数を増大させることに主眼が当てられます。また、顧客との取引量という観点で考えれば、想定する市場において顧客は現状の取引額 = 0 の顧客(新規顧客)と、現状の取引額 > 0 の顧客(既存顧客)という形で分解でき、前者を後者へと転換させていく試みであると言えます。さらに分析/活用の範囲としては、全くコンタクトの無い顧客と何らかの関係性を確保し(アドレスを取得する、データベース上で ID 付けする)、場合によっては見込み客として捉え、そして最終的には自社の顧客として固定化、定着化を図るまでのプロセスを対象とします。
全くコンタクトの無い顧客に対してアプローチを行なう場合、マス媒体(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ、インターネット)やそれ以外の不特定多数向けの媒体(ポスター/看板、チラシ等)を利用してコンタクトの無い顧客層へ呼びかけをしなければなりません。このとき「誰に対してメッセージが届いたか」という情報を正確に把握することはできません。しかしながら、多くの媒体では想定露出数を広告スペース購入時に媒体資料として提供しており、ここから大まかな「案内顧客数」を理解することが出来ます。ここから顧客を識別可能なチャネルへと誘導できた数(反応顧客数)を理解できれば、レスポンス率( = 反応率 = 反応顧客数/案内顧客数)を理解することができます。また案内にまつわるコストと、得られた売上/利益を比較することによって、新規顧客の獲得効率を理解することが可能となります。
これに対して、チャネル毎、キャンペーン毎でレポーティングすることができれば獲得効率をより詳細に把握することが可能となります。また、一部の業界、例えば保険業等では見込み客(見積依頼やカタログ送付依頼を受けたが契約には至っていない顧客)に関するデータを捕捉することも可能です。この場合、案内顧客から見込み顧客、そして契約顧客への転換状況を把握することも考えられます。
レポーティングの段階で、自社の新規顧客獲得状況が思わしい状態にあるかを確認可能です。また「思わしいか否か」は、他の課題(後述する優良顧客育成や、顧客リテンション)との関係の中で、自社がこの課題をどの程度重要視するかで判断される点です。いずれにしても一定期間における基準獲得顧客数(思わしい数)を例えば 100名とした場合、結果が 70名であれば何かしら改善が必要であり、150名であれば何がプラス 50 を導き出したのか理解する必要があります。つまり原因追求を行い、このような原因に至った理由を導きだす必要があります。これを行なうのが非定型分析の役目です。
非定型分析を行う場合の典型的なポイントとして以下を挙げます。
実際の分析においては、獲得顧客を上記もしくは上記の複合条件でドリルダウンしていき、それによって改善ポイント、もしくは成長機会ポイントを見つけ出し、今後のキャンペーン活動に役立てることが必要となります。
獲得を実現した顧客は、丁寧にフォローアップがなされ、定着へと誘導されなければなりません。また、獲得した顧客が既存顧客になるため、顧客がどのような嗜好性を持つか、どのような特性を持つかが関係性を深めていく中で理解されなければなりません。これを体系的に行なうのがセグメンテーションです。セグメンテーションは獲得した顧客だけではなく、顧客と自社の関係が続く中でずっと検討されなければならないテーマです。つまり、新規顧客の獲得だけでなく、優良顧客の育成、顧客リテンションといった経営改善課題に関しても重要な手法となります。社内的には、顧客との関係が深まっていくにつれて、顧客に関するより深い理解を得て、それを元に顧客を適切に分類していかなければなりません。思考方法や行動パターン、特定企業活動に対する反応、好みの商品やサービス、反応を示さないインセンティブ、そしてどの程度の収益性を自社にもたらしてくれるか...これらの点は付き合いが長くなればなるほど明確になっていきます。
また定着化にあたっては、将来的に定着化を見込める顧客であるかどうかも鑑み、フォローアップ経費の投下が為されなければなりません。例えば他社、もしくは自社の割引キャンペーンに著しく反応するような顧客の場合、極めて短期間での離反確率(=定着しない確率)が高い顧客であり、フォローアップ経費を投下しても、回収できない顧客かもしれません。このような確率、そして顧客がもたらすであろう生涯利益も踏まえ、定着化に力を入れるべきか判断しなければなりません。
モデリング/スコアリングの技術はこのようなセグメンテーション、そして定着確率のような予測業務を実現し、顧客を丁寧に選り分け、重要な顧客に対してはフォローアップを測り、定着を促していくための知識を提供します。手法としてのセグメンテーションを考えた場合、マニュアルで選定基準を策定し、その選定基準に基づいた顧客をセグメント所属顧客として選択する手法と、データマイニングの手法(クラスター分析、決定木、因子分析等)を利用した選択手法が存在します。また発生確率の予測にはロジスティック回帰分析を用いるのが一般的です。
新規顧客の獲得によって得られたデータは、データウェアハウスを含め各システムに反映されなければなりません。各チャネル、もしくはインプットシステムで登録された顧客データはまず、データウェアハウスに統合されるべきです。一般に今日の企業は複数のチャネルを通じて顧客とのやり取りを行なっているため、単一チャネルのデータのみでは顧客に関する視点が偏ったものに陥りがちです。通常データウェアハウスには各チャネルから得られた顧客データがすべからく集合するため、この同期化を行なう上での「正」データの保持先として適切です。得られたデータは常にデータウェアハウスに飛び、そのデータを「正」として各チャネルや基幹業務システム等へ同期化されるのが最も効率的な顧客マスターデータ管理と言えます。またこの際、どの程度の頻度で同期化されるべきかは、クロスチャネルでの顧客対応をどの程度の時間的間隔で行うかという観点から決定されるべきです。
新規顧客の獲得において、イベントトリガーのテクニックは大きく 2つの利用方法が考えられます。1つは見込み顧客に対する契約前段階のフォローアップです。そしてもう 1つは契約/初期利用段階における定着化とユーザーサービスを兼ね備えたものとなります。
1点目の見込み客フォローアップでは、見積依頼、もしくはカタログ送付依頼のあった顧客に対する、一定期間を経たフォローアップが考えられます。例えば見積依頼があってから 1週間後に「その後ご検討はいかがでしょうか?」というメッセージを案内するといったアプローチです。これはデータベース上で 1週間経過してなお契約が得られていない顧客をリストアップし、適切なチャネルを通じてフォローアップを行う単一のキャンペーンと捉えることができます。
2点目の契約後/初期利用段階におけるフォローアップとしては、以下が考えられます。
これらはいずれも、契約、口座開設、会員入会といったイベントをトリガーに実施されます。また、このようなイベントにプラスして、デモグラフィック情報、行動履歴等も合わせて利用することにより、顧客毎に適切なフォローアップを行い、定着率を上げることも期待できます。例えばクレジットカードの新規入会を考えた場合、初回の利用シーンに合わせて定着フォローアップを行う(「レストランを利用」であれば「近隣レストランのご案内」、「インターネットショッピング」であれば「おすすめサイトをご案内」等)ことも考えられますし、通信サービスで契約後利用が無い場合には、フォローアップの電話を入れる(利用方法でお困りの点がないか確かめる)ことも考えられます。
以上が「新規顧客の獲得」に関連するデータ分析/活用例です。いずれも「いままでコンタクトの無かった顧客」を喚起し、関心を持った顧客に対してはもれなく「定着化」させるための試みです。分析という意味ではマス媒体/不特定多数向け媒体を通じたアプローチの善し悪しを測り、適切な媒体を選択するための知識を得ることが主眼となります。また活用という意味では自社が識別可能なチャネルまでルーティングされた顧客に対して、システマティックに定着化を図ることがその目的となります。HAL9000風に考えれば、Teradata は利用者が実施した獲得キャンペーンに対して評価レポートを提供します。ここからキャンペーンの良かった部分/悪かった部分に対する掘り下げ可能な環境を提供し、フォローアップが必要な顧客とそうでない顧客を選り分け、フォローアップが必要な顧客に対するアプローチを自動的に実行(代行)します。また企業システムを頭脳(データウェアハウス)と手足表情(各チャネル)と捉えた場合、1人の顧客に対して身体全体が一貫した接し方ができるよう、顧客情報を行き渡らせます。
次回は、顧客管理に関する課題2: 優良顧客の育成について触れます。