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ポストCRMを読み解く10のキーワード

山本 泰史
マーケティング統括部
マーケティング部 スペシャリスト

第8回: マルチチャネル

前回の連載では個別化の各要素に触れ、その中でチャネルの個別化という要素についてご紹介した。情報技術の進展によって、電子的なチャネルはより大きな位置づけを占めるようになってきている。現代は老若男女を問わず携帯メールを送受信する時代であり、TVCM が絶対的影響力を持った世界から、各チャネルが並列共存する世界へと、急速に変貌してきている。今回のキーワードは「マルチチャネル」。複数のチャネルが並列に存在する世界では、企業もマルチチャネル化によって、洗練されたコミュニケーションと利便性を提供していくことを求められる。

各チャネルデータの統合

ここ十余年における、顧客コンタクトポイント技術の進展には目を見張るものがある。例えば顧客が保持するロイヤルティカードの類に関しては、スキャニングの形態から保持できる情報の量や種類に至るまで、様々なバリエーションが存在する。また、企業間でポイントやサービスをプールしあう取り組みも増えてきている。他方、インターネットの技術を利用したチャネルも普及している。Webサイトや電子メールは言うに及ばず、ATM やキオスク端末もインターネット技術を利用しており、携帯メールも電子メールの一種である。これらのチャネルを拡充していくことによって、顧客接点の幅は広がった。しかしながら、各チャネルからの情報を統合し、チャネル横断的に分析を行い、顧客対応に活用している企業は未だ少ない。物理店舗では重要顧客を丁重にもてなすことができても、Webサイトからアクセスすると一見さん扱い -そんな企業も未だ多いのではないだろうか。各チャネルのデータを統合できれば、顧客をチャネル間で誘導させることも、顧客毎に適切なチャネルを選択することも可能となる。何よりも好ましいことに、大事な顧客を、チャネルの類を問わず識別でき、適切に接することができるのである。

チャネルの透過的活用

例えば、毎日のように来店してくれる顧客に、わざわざダイレクトメールを発送したり、電子メールを配信したりする必要はない。折角来店していただけているのだから、もし商品オファーやその割引案内を行なうのであれば店頭のキオスク端末や、POS端末を利用したクーポン案内等を考えるべきである。

逆もまたしかりで、中々来店いただけない顧客には、ダイレクトメール、電子メールといったチャネルにオファーを乗せ、来店購入を誘発することになる。もしくはデリバリーサービスやインターネット販売を案内することも考えられる。また、何回かダイレクトメールを送付しても一向に反応が得られないのであれば、その顧客にとって郵便物は無駄なものなのであろう。おそらく最低限以上の意識をそこに傾けることは無い。逆にいずれのチャネルからでも良好な反応を得られるのであれば、案内する商品を訴求するのに最も適切なチャネル、もしくはよりコストの低いチャネルを選択すればよい。前者は例えば、試供品の提供、高画質のクリエイティブで訴求しなければならないアパレルウェア等、物理的なダイレクトメールであることを求める場合である。もしそうでないのであればコストの低い電子メールを利用したほうが、同じ効果をより低いコストで実現できることになり、キャンペーンの収益率は高まる。

チャネル嗜好性理解の方法

個人毎のチャネル嗜好性は、各チャネルから得られた顧客の利用実績を分析することによって、理解可能である。通常の購入がインターネット中心になっているのであれば、案内チャネルは電子メールの方が誘導し易い。前述のように来店頻度の多い顧客に対しては、インストアマーケティングを主軸に据えるべきである。例えば選択肢として電子メールとダイレクトメールが存在するような場合も、考え方は同じである。各チャネルから数回ずつ案内すれば、チャネル毎の反応率が明らかになる。顧客のチャネル嗜好性に変化が表れる場合もあるため、完全にどちらかへと傾斜するのは危険だが、基本的には反応率の高いチャネルを主チャネルとして利用すべきである。

また、もっと直接的なチャネル嗜好性も存在する。それは顧客によるパーミッション(案内やコンタクトの許可)情報である。この情報は顧客の希望であり、絶対的なものである。「電子メール配信は構わないが、電話はしないで欲しい」顧客に対しては、この許可と禁止事項をデータベースに登録し、禁止されたチャネルを通じた案内をしないようにしなければならない。次回はこのような問題にまつわるキーワード「デリカシー」をテーマに挙げる。

この記事は雑誌 『チェーンストアエイジ』 (2007年7月1日)に掲載されたものです。

チャネル毎に異なるイベント

それぞれのチャネルには異なる特性があり、これがアプローチや顧客の利用における制約条件となる。例えば物理的なダイレクトメールは、物理的であるが故に、顧客に到着するまでのリードタイムを考慮しなければならない。一方で電子メールのリードタイムはほとんど無きに等しいが、ビジュアルは利用者のパソコンや携帯端末に限定されることになる。また、取得可能なデータも様々に異なる。ダイレクトメールの場合、間接的には店舗に誘導することによって購買データや来店データと関連付けることも可能であるが、直接的に得られるデータは「送付」実績データと、「戻り」実績データのみである。

このような顧客とのやり取りの意味するデータの代表例は、取引データである。取引データは購買可能なチャネル、例えば物理店舗、オンライン店舗、コールセンター等でのみ発生することになる。そして取引データを含めた全ての顧客とのやり取りは、包括的に「イベント」データとして定義可能である。イベントデータは、企業から顧客へなされた「Out」タイプのイベント、顧客から企業へなされた「In」タイプのイベント、そしてそれらに間接的な影響を与えるイベントの3種類に分類される。Outイベントの典型例はキャンペーン案内である。これに対して Inイベントの典型例は取引データであるが、Webサイトの訪問履歴やクレーム、客注等もこのタイプに含まれる。尚、社会的な事件や流行、天気、さらには週末にタレントを呼んで催される「イベント」は、間接的なイベントとなる。エンドの企画陳列や TVCM、雑誌への広告掲載も、識別可能な個人に向けたもので無ければこのタイプに含まれるだろう。

間接イベントと、Outイベントのデータを蓄積することによって、何が消費者の購入/来店に結びついたのかを理解することができる。同様にどのような Out、つまり働きかけが顧客にとって意味の無いものであったかを理解できるようになる。そして Outイベントに対して発生するのが Inイベントである。購買やカタログ送付希望等のデータは、いわゆる顧客レスポンスと呼ばれるものである。これらのイベントを顧客毎に、そして時系列に並べることによって、企業活動と消費行動(と社会事象)の因果関係が明らかになる。

従来小売業では、取引データが分析の中心として扱われてきた。消費者が購入を決断し、お金を支払ったという「イベント」は大変重要な事実であり、その重要性は今後も変わることは無い。しかしながらそれに前後して発生した「イベント」をあわせて蓄積し、包括的な理解を心がけることによって、さらなる顧客理解を得ることが可能となるのである。

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