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山本 泰史
マーケティング統括部
マーケティング部 スペシャリスト
ポストCRM を読み解く、7つ目のキーワードは「個別化」である。個別化は英語でパーソナライゼーションと呼ばれる。顧客に対するマーケティング案内や、何らかの対応をする際に、個人それぞれに異なるアプローチをすることによって、より訴求力の高いマーケティング案内をすることを意味する。これは顧客から見たとき、より個人のニーズに即したオファーを受け取れることを意味し、より「人の違い」に着目したアプローチと言える。ここでは、個別化の対象となりうる分野について説明を加える。
最も基礎的な個別化は、現在でも多く見られるものである。顧客の名前を呼び、誰に宛てたメッセージなのかを明確にすることがその目的である。ダイレクトメールの宛名や電子メール上での名称のバリアブル化、コールセンターでのエージェントスクリプト(話す内容を記述した文章)やエージェント向け画面への表示等、名前で呼ぶことによって、ご愛顧頂いていることへの感謝の念、重要な顧客であると認識していることを伝えることになる。
案内すべき商品や、インセンティブ(割引やその度合い、プレゼント等)の個別化は、個別化の本質である。前回まででご紹介してきた生活シーン/スタイル/ステージは顧客毎に異なる。データから理解できるこのような違いを元に、オファー内容の個別化とリコメンデーションが可能となる。これによって、画一的なオファーよりも高い反応を期待できるが、コスト対効果を鑑みた場合、1人1人の顧客毎にオファーを考えるのは現実的ではない。これは経済的な理由だけではない。企業としてのオファーの一貫性に欠けてしまう危険性も回避しなければならない。また、1人1人のプライバシーをつぶさに調べ上げるような行為も避けなければならない。
ではオファーの個別化はどのようになされるべきか。アプローチの仕方はあまたあるが、個別化は段階を踏んで行なうべきである。例えば重要顧客と、そうでない顧客でオファーの魅力を変える。これに加えて性別や年齢に基づいて個別化する。さらに過去の購入商品や行動に基づいて細分化し、個別化していく。これによって 1人の顧客、例えば 35歳女性、重要顧客で、健康食品を中心に購入する顧客向けのオファーが出来上がるが、注視すべきは 1人1人の顧客ではなく、3つの個別化基準のみとなる。この個別化基準を増やしていくことによって、次第にオファーは「パーソナライズ」され、最終的には「ONE to ONEマーケティング」で D・ペパーズと M・ロジャーズが著した世界に近づくことになる。そして何よりも、その顧客にとって重要な生活上のテーマを理解し、その理解に基づいて自然なカタチで生活を支援できることが、顧客と自社にとっての重要な価値になる。
また、オファーは商品に限らない。同じ商品を案内するにしても、商品の位置づけやメッセージを個別化したほうが、より顧客が生活している環境に位置付け易い。例えばホームセンターが工具類を案内する場合、それは日曜大工向けだろうか、それともプロ用途だろうか。顧客によって熟練度は異なる。初心者向けの使い方も含めた分かりやすい案内が好ましい場合もあれば、プロ向けの、業務用途に耐えうる品質や機能性であることを訴えたほうが良い場合もある。
オファーと同様、タイミングの個別化も重要な要素となる。個人別に限らなければ、季節性に基づいたマーケティングはどこでも実施されている。夏には花火が売られ、春先には新学期セールが開催される。クリスマスにはケーキやチキンが店頭に並ぶことになる。このような時間軸は、個人毎にも存在するはずであり、そのタイミングは顧客のニーズが最も高いタイミングである。もちろんその全てを理解することは出来ないが、得られたデータからそのうちの幾つかは類推することが可能である。前回ご紹介した「イベントトリガー」は、これを実現する手法でもある。化粧品やヘルスケアの商品は、非同期に補充のタイミングが発生する。商品の平均的なライフサイクル、もしくは個人の利用形態に応じた補充インターバルをデータから理解できるのであれば、そこから導き出されたタイミングでアプローチすることが最も適切なタイミングとなる。
これらの個別化にはもう 1つ、チャネルの個別化という要素がある。また個別化を行なうにはプライバシー保護を抜きにしては語れない。そのため、次回以降でこれらに触れていくことにする。
この記事は雑誌 『チェーンストアエイジ』 (2007年7月1日)に掲載されたものです。
個別化をレスポンス率や売上へと転換するためには、手持ちデータの量が決め手となる。なにも個別化をすることが目的では無い。より顧客にとって魅力的な案内をするために個別化という手法を選択するのであり、個別化すれば何でも良いという訳ではない。無意味な個別化、例えばランダムにオファー商品を可変させても、何の意味も無い。それならば画一的であっても、自社が一番自信を持っているオファーを案内したほうが結果は期待できる。以下に、手持ちデータの量を測るための観点について触れる。
履歴データの保持期間
例えば冷蔵庫やエアコンの買い替えを促したいのであれば、それなりの保持期間を有する必要がある。また、その世帯に住むお子さんが大きくなっていることが想定されれば、提案する冷蔵庫の容量も変わることになる。
データの鮮度
コートが必要と感じる時期は、いち早くアパレルショップが品揃えを変える時期だろうか。それとも秋風が身に凍み始める時期だろうか。人によって秋冬物に手が出る時期は異なり、これは案内タイミングを可変にした方が良いかもしれないことを示唆しているが、それ以上に気にすべきは、既にコートを購入してしまっている顧客の扱い方である。他店で購入してしまったのであれば検知のしようがないが、既に購入してしまった顧客にコートを案内してしまったら、顧客の心象はよろしくない。オファーを個別化するのであれば、そのオファーが有効なものか、無意味なものかは検討する必要がある。よほどのコートフェチでない限り、同シーズンに 2着もコートは購入しないはずであり、仮にコートフェチでも、既に購入したコートとは趣の異なる商品を案内して欲しいはずだ。そしてその際、鮮度の高いデータを利用して対象顧客を絞り込むことが必要となる。
データの範囲
量販店が幼児向け衣料品を案内するとき、対象顧客は幼児向け衣料品を購入する顧客だけだろうか。紙オムツを購入している顧客、幼児向け玩具を購入している顧客も立派な候補となるはずである。利用可能なデータ範囲の広さが、アイデアを生み出す土壌となるのである。
データの詳細度
同様に幼児向け衣料品を案内するとき、それは男児向けだろうか、女児向けだろうか。過去の購入商品からそれを理解できれば、個別化は容易となる。また過去に反応した案内が価格訴求型の案内であれば、ボリュームディスカウントが効くかもしれないが、特定ブランドの案内にしか反応しなかったのであれば、価格はさておいて当該ブランドの新着商品を訴求すべきである。これらの個別化能力に共通しているのは、データの詳細度である。
データの一元性
これらのデータを保持するにあたって必要な考え方は、データを一元的に保持するという考え方である。一元的という表現は抽象的かもしれない。要は、全てのデータが互いに関連付けられていることが必要になるのである。時間、顧客、商品、チャネル、キャンペーンといった各データが現実のビジネスを正しく再現できるように保持/蓄積されなければならない。