ホーム > ライブラリー > Teradata Insight > ポストCRMを読み解く10のキーワード >第6回: イベントトリガー
山本 泰史
マーケティング統括部
マーケティング部 スペシャリスト
自社と顧客の間には、様々なやり取りが存在する。取引、つまり商品の購入はその最たるものだが、これ以外にも、例えばインターネットであれば Webサイトへの訪問、キオスク端末での画面タッチやクーポンの印刷等が挙げられる。また自社から顧客への働きかけも、前述のチャネルや、電子メール、ダイレクトメール等を通じてなされることになる。
今回ご紹介するキーワード「イベントトリガー」のイベントとは、このようなコンタクトや取引を包括的に捉える概念である。自社が顧客に対して物量的なマーケティングプレッシャーをかけていないという前提において、このイベントの量は関係性の強さを意味する。特に顧客起動で、自社に向けられたコンタクトや取引は、その顧客が自社に対して抱いている信頼や依存の代替表現と言えよう。RFM に見られる伝統的なダイレクトマーケティング手法においても、Frequency(=来店頻度)は重視されてきたが、ここでは、イベントが暗示する別の側面に着目する。
「イベントトリガー」という考え方は、顧客に関するイベントをトリガーに、何らかのマーケティング案内を行なう手法である。卑近な例を挙げれば、顧客の誕 生日にハッピーバースデーメールを送るのもイベントトリガーである。このようなイベントは様々に考えられるが、技術的には一定の検出条件をデータベースに 設定し、データベース更新時に検出条件に合致する顧客をピックアップし、事前定義されたマーケティング案内を自動的に起動させる。同様のシンプルな例とし ては、新規会員にウェルカムメッセージを案内する、1ヶ月間来店購入の無い顧客に割引券を同封した来店喚起のメッセージを案内する等が考えられる。いずれ もデータベース上に検出条件を設定し、データ更新毎に合致顧客を調べ上げ、イベントに基づいてその後のアクションを確定し、自動実行することになる。もち ろん全て機械仕掛けに固執する必要はない。リストアップはデータベースに任せ、リストアップされた顧客に対して販売員が手書きでダイレクトメールのメッ セージを書いて案内しても構わない。ハイタッチなコンタクトを融合させることも可能である。
これを従来型のマーケティング案内と比較すると、興味深い相違点が見えてくる。まず、従来型のマーケティング案内は案内タイミングが一斉であり、自社の案 内タイミングに委ねられる。これは言い方を変えれば、プッシュ型で、顧客の都合を無視しているとも言える。今週末に創業大感謝セールを行なうのは企業の都 合であり、顧客の都合とは関係がない。これに対してイベントトリガー型のマーケティングは、擬似プル型のマーケティングと定義できる。狭義のプルは顧客か ら「こんな商品が欲しい」と注文を頂くことだが、イベントトリガー型ではこのような心理変化、欲求等を察し、その兆候をデータベース上に実装される検出条 件として定義することになる。従って、検出されたイベントに主導されるマーケティング案内はプッシュ型だが、そのきっかけは顧客行動であり、意味合いとし ては顧客の潜在ニーズに基づくプル型の案内となる。
前回ご紹介したランドセル購入イベントは生活ステージの移行を捉え、提案商品の変更を示唆してくれる強力なイベントと定義付けられる。しかしながら多くのイベントはもっと小さな兆しであり、複雑な検出条件を要する。例えば離反が想定される顧客の検出は「1ヶ月間購入が無い」で適切だろうか。業態にもよるが、郊外型のショッピングセンターであれば「過去 1年間の平均来店インターバル+2週間購入が無い」とした方が、より顧客心理に適している。これで毎週末来店する顧客にも、季節の変わり目にしか来店しない顧客にも対応可能となる。
また、イベントと合わせて他の購入商品や年齢等、他の顧客データを分析することによって提案商品を絞り込み、訴求力を高めることも可能となる。ランドセルの購入顧客が 20-30歳代であれば母親と想定でき、お子さんの生活必需品に関心を抱くかもしれないが、50-60歳代であれば祖父母かもしれない。もしそうであれば玩具や衣類等、お孫さんを喜ばせるための商品に関心を抱くだろう。このような違いは、ランドセルとその前後の購買商品によっても理解できるであろう。アイデアをひねり出すこと、そして分析によってイベントとそれに基づく案内方法を精緻化することが、このようなアプローチを成功に導く鍵となるのである。
次回は個別化、つまりパーソナライゼーションについて説明する。
この記事は雑誌 『チェーンストアエイジ』 (2007年7月1日)に掲載されたものです。
1997年に、オーストラリアのある銀行が先鋭的なリード(ビジネス機会の対象となる顧客群)認識の手法を考案し、NCR Corporation と共にこの手法の開発に踏み出した。のちに「イベント主導型マーケティング(EBM: Event-Based Marketing)」と呼ばれ、特に海外の金融機関において数多く採用されることになるこの手法は、データベース内に存在する顧客行動データに対してしきい値を設け、そのしきい値に合致するイベントをトリガーに該当顧客を選り分け、顧客との対話を開始させるという手法である。この手法は従来のプッシュ型、つまり送り手主導型のマーケティングに対する強力なアンチテーゼと位置付けられ、また静的なデータのみを対象としていたダイレクトマーケティングに視座の拡大を与えることとなった。この手法の技術的なエッセンスは、データの変化をトリガーにマーケティングを行うという、単純で機械仕掛けの色合いが濃いものであったが、ここからより実用を想定したものへと変貌を遂げることになる。
2000年にこの共同開発の成果として NCR から販売開始された Relationship Optimizer は、単純なトリガード・マーケティングから一歩踏み込み、トリガーを起点に顧客との対話を開始することによって、マルチステップ型のコミュニケーションへと進化することになる。そしてそれに伴い、各ステップにおいて最適なチャネルを選択できるようマルチチャネルへの対応がなされた。例えば初回のコンタクトはコールセンターからはじめ、このコンタクトから商品の詳細案内を希望する顧客には渉外担当が赴くといった形で、自在に時間と時間、チャネルとチャネルをつなぎ合わせ、パーソナライズされたコミュニケーションが実現できるように改善された。
2001年、NCR はさらにあるソフトウエア企業の買収を行なった。おもに小売業におけるキャンペーン管理ツールとして、北米を中心に利用されていた Ceres と呼ばれるこのソフトウエアは、分析とキャンペーン管理の連携に秀でており、多品種の商品を扱う小売業特有の要件である、顧客ニーズや行動パターン、嗜好性の析出に長けていた。同年末にこれら 2つの製品を統合したハイブリッド版である Teradata CRM が販売開始され、以来数多くの企業で導入されることになる。Teradata CRM は、Teradataデータベースをプラットフォームとして利用することにより、大規模なイベント検出とキャンペーン実行能力だけでなく、顧客行動を理解し、コミュニケーションに役立てるためのパワフルな分析能力を得ることになったのである。