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団塊の世代が見た小売業システム

岡本 正昭

岡本 正昭 (おかもと まさあき)
流通ソリューション事業部
エグゼクティブ・コンサルタント

第2回:経営者に会う/現場の声は、聞くけれども、きかない

今回が実質的には第1回目である。そこで 2つのテーマを取り上げる。それぞれ筆者がどういった視点で小売業に提案していくかについて、心がけてきたことである。特に誰の声を、どう受け止めて聞くか、という点について述べる。

経営者に会う

一般的にシステム・ベンダーは、小売業のシステム担当者に会って、提案構想を練る場合が多い。その次にはビジネス現場の方に会って、現場ニーズを把握しようとする。確かにこういった作業は提案をする上で欠かせないが、もっと大事なことは、その小売企業の経営者に会うことである。もちろん、忙しい経営者がそう頻繁にシステム・ベンダーに会うことは難しいと思うが、経営者に 1時間会って話を聞くことは、他の方々に会う 50時間に相当するかもしれないし、もっと言えば、他に代えがたい 1時間であるとも言える。私が経験した限りでは、小売業経営者は多くの場合、我々システム・ベンダーに対してフランクに接してくださるし、自分のやりたいこと、こうあって欲しいことをオープンに話してくださる。また、ご自身で判断できないことも素直に質問される。また、我々が的確な説明をした場合の反応は、社員の誰よりも早い。つまり経営者は打てば響くのである。

私も以前は、なぜ経営者とはこんなに話が通じるのに、社員の方々(ミドルマネジメントや現場担当者)にはこれだけ説明してもわかってもらえないのか・・と不思議に思うことが多かった。

それは多分、経営者は社員全員とその家族の命運を背負い、かつ多くの顧客を背負っているので、何か経営に役立つものはないか・・と常に気にかけているからだと思う。一方で、私のほうも何かこの企業のビジネスにプラスになる提案が出来ないかと常に考えているし、また自説に対して反省を繰り返している。お互い範囲は違っても、その企業の成長、社員が明るくなれる方策を模索している者どうしなので、波長が合うのだと思う。つまり経営とシステムは会社を変えることが出来る点で似ているのである。

一方、社員の方々は往々にして大企業病に陥っていて、指示待ち型であり、不満対象は周りの誰か、特に経営者へ、となっている。ところが、優れた経営者には不満などの持って行き場所はなく、自分自身ですべて背負っている。残念なことに、社員の方で会社そのものを良くしたいと考えている人は少ないし、また、たとえそう考えても実践のための方策を持っていない。同様に、本当に顧客のために何をすべきかを突き詰めて考えている社員も少ない。

結論的には、システム・ベンダーは経営者に会う機会を作る努力をし、また幸い会うことができたら、極力素直に聞き、素直に質問し、素直に自説を述べるべきである。ただし、システム・ベンダーが誠意を持っていない場合は論外である。自分の会社の都合や、自分の営業成績のことをベースにしか考えないシステム・ベンダーは結局のところ、その小売企業とは良きビジネスが出来ない。

長い経験の中には、業績不振にあえいでいた会社とお付き合いしたこともある。買収された側のその企業では、多分社員の方々は不安で一杯だったはずである。経営者から私に事前に相談があり、今後の構造改革プランを聞き、私は「ぜひ、その改革のお手伝いがしたい」と答えた。ビジネス的にも革新的なシステムを納入し、その企業がビジネスを大改革し、業績も見事に回復した。10年たって久しぶりにその企業を訪問したら、受付に就職活動の学生が多数来ていて「あー、ここまで立ち直ったのだなー」と感無量であった。

一般論で言っても、私にとってはあるシステムを購入いただき、動かせたことよりも、何年か後にその小売業の方が元気になり、その小売企業のビジネスが成功したことのほうがよほどうれしい。

現場の声は、聞くけれども、きかない

ややこしい言葉使いで恐縮である。ここで「聞く」とは、現場の方に質問などをして話してもらった事を耳で聞くという意味であり、「きかない」とは、その聞いたことを右から左に解決することはしない・・ということである。

次期システムの検討にあたっては、小売企業の中でも、またシステム・ベンダーが参加した場合でも、よく現場サーベイ(調査)や現場アンケートを最初に行うということがある。この場合は、経営者に話を聞くのとは少し違うスタンスで臨む必要がある。経営者の考えは出来るだけ多くシステムに取り入れるべきであるが、現場の意見は程々にしか取り入れる必要が無いか、または全然取り入れる必要が無い。現場サーベイの結果は往々にしてシステム提案の伝家の宝刀として使われがちである。それは現状の小さな手直しの場合は良いが、改革的なことや新規の取り組みをしたいといった BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)にはあまり役立たない。データウェアハウス採用や、その昔の POS 初期導入はその後者の例である。

つまり、新しいことの検討の際は「現場の声は、聞くけれども、きかない」ということである。現場の声を聞くのは大事であるが、それは、現状把握のためであり、ヒントを得るためである。だから現場の問題指摘の声は、ほとんどの場合解決策に結びつかない。

きかない理由その1:

現場の意見は基本的に今動いている仕組み、システムに対してのものである。今のものを改良するよりも、新しい仕組み、システムに切り替えることのほうが経営的な目的であるが、現場は新しい仕組みやシステムを知らない。

きかない理由その2:

問題意識を持っている少数の人の声は大きく、問題意識の低い大多数の人の声は小さく聞こえる。しかし、BPR はむしろ大多数の人に対して効果的なものである場合が多い。

きかない理由その3:

誰も自己否定はしたくない。経営的にはこういう組織自体なくすべきだと考えていても、当該の現場の人は自分の仕事が将来もある事を前提に真剣に改善策を考え、意見を出してくる。

きかない理由その4:

現場の声を聞くには、当然一人だけでなく何人かの人に聞くことになるが、必ずしも皆が同じ意見とは限らない。一方経営者の場合、その意見は一つに集約されている。もちろん、経営者も迷いはあるので、その一つが揺れ動くことはあっても、結局は一つにまとまる。大勢の現場の意見は、先ず一本化されることは無い。

とはいえ、私も過去には何回も現場面談調査をやってきている。特に印象的だったのは、まだ POS を採用すべきかどうかを小売業側が迷っている時代に行った面談や、現場張り付き調査である。ある百貨店で、売場のレジ担当者のそばに椅子を置いて 1日見ていたことがある。座りながら、当時専任であったレジ担当の女性と色々話しをした。その結果、「こういう仕事から、彼女たちを解放してあげたい!」と強く思ったことが、その後の私の熱心な POS 提案の源となった。彼女たちは、
・楽しくない=華やかな売場の中でじっと 1日座っていないといけない。仲間の店員はお客様と楽しく話している。自分は話すことさえ出来ない。
・気疲れする=お金を扱っているので、レジ打ちには細心の注意が必要だし、お釣りのミスも許されない。1日終わってレジ精算したときに不足金が出ると、一生懸命調べないといけない。原因がわかるとも限らない。
・達成感がない=レジ精算でぴったりお金が合っても、周りの店員や上司は当たり前のこととしか見てくれない。売場の売上目標達成にも参加していない。

つまり、やる気が起こらない仕事・仕組みにはめられているわけである。当時の彼女たちは POS でどう変革出来るなどとは考えも及ばないので、代わって私が考えようという気になったのである。

このように、現場の声を聞くことに主眼があるのでなく、現場の状態を肌で感じるためであれば調査には意味がある。そのため、現場面談調査のときは、Q&Aシートに答えてもらうのではなく、「あなたの、毎日の仕事とそのやり方を教えてください」と伝えて話を聞く。もっとも、表面上の調査体裁のために Q&Aシートを用意することもあるが、それを埋めることよりも、例えば 1時間の中でいかにその方の日々の仕事に関する実感が持てるか、にかかっている。そして面談の冒頭で、相手の社員の方に「今日はあなたの仕事について色々教えてください。不満や希望もお聞きしますが、この面談でそれが解決につながるとは思わないでください」とお断りしてから面談本題に入る。

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