ホーム > ライブラリー > Teradata Insight > 購買行動分析による消費者理解 > 「第1回」1992年のクリスマス
岡本 正昭 (おかもと まさあき)
流通ソリューション事業部
エグゼクティブ・コンサルタント
THE WALL STREET JOURNAL
1992年12月23日(水)記事
今日POSデータの画期的な活用例と言われて久しい「バスケット分析による、紙おむつとビールの関連購買」記事が米国ウォールストリートジャーナルに出たのは1992年のクリスマスシーズンであった。この記事のタイトルは「スーパーコンピューターが歳末商戦の在庫を管理する」といった訳が付けられるもので、それまでにない民間企業向けスーパーコンピューター(=並列型商用コンピューター)の実用期到来と、その画期的な情報活用面を取り上げたものであった。そしてこの記事が今日も人々の記憶に永く残る話題となったのは、記事の最後の部分で述べられている「アメリカ中西部の都市で、ある人が午後5時に紙おむつを買ったとすると、次にこの人はビ−ルを半ダース買う可能性が一番大きいことをこの店では発見したのです」という記述が原因である。
それまで単純に「どの商品が売れた・売れなかった」を示すものと信じられていたPOS情報を、消費者の購買の仕方、店頭陳列のあり方を示すもの、つまり過去の記録用から、これからの顧客行動を予測し、店頭陳列を変えるという積極的活用の出来るものとして暗示するものであった。つまりこの記事は (1)新しいITの登場、(2) 大量のレシートレベルPOSデータの活用、(3) 企業のビジネス上画期的な情報活用を読者にわかりやすい形で三題噺として書かれていた。この「紙おむつとビール」話は連鎖的に「バスケット分析」(消費者が買物したバスケット自体を分析すること)を「データウェアハウス」(企業のすべてのデータを1つの収納場所に集中格納し、そこからいつでも情報が取り出せるようにするという考え方とその実践技術)を使って行う例として解釈された。ここまでは良かったが、日本ではさらに連鎖しこれが「ウォルマート」の事例だと誤って流布されることとなった。今日世界一の小売業として知られるウォルマートも、当時はまだ日本ではほとんど幻の急成長小売業であったので、このウォルマートと画期的な新技術を結びつけて考えたい人々が多かったからであった。このミスのおかげでウォルマートやデータウェアハウスという言葉がより早く日本に普及したことは、皮肉な歴史上の事実である。
しかし本質的にこの記事の示した「消費者の購買行動を知ることが小売店舗を変える」・・という投げかけは心ある小売業関係者や、IT業界人にその後根深く重要テーマとして残ったのであった。もちろん表面的に「紙おむつとビール」といった意外で奇異な例をさらに求める人々も一方にはいたが、当然そういった見方は最近では衰退している。今シリーズでは「購買行動分析(又は、短く、購買分析)による消費者理解」と題して、小売業におけるPOS情報活用の見直しを取り上げたい。ある意味では店頭での消費者に対する理解のコペルニクス的転換を提案していきたい。たとえば、小売業が歴史的に信じてきた「売れている商品は良くて、売れていない商品は悪い」という正義に疑問を投げかけることや、顧客のライフスタイルに合わせた店作りをデジタルに仮説・検証出来ないかといった挑戦を論じることになる。